光技術×ロボット
ロボットの“五感”
以前紹介したドローンや自動運転車は、障害物を回避するために距離センサを搭載していました。また、光センシング技術を発展させるためには、それを統括する“頭=人工知能”の発展が鍵となります。人工知能の発展には、ソフトウェアと、ハードウェア(ASICなど)の開発が不可欠です。人工知能と光技術の融合で、今では想像も出来ないようなことが出来るかもしれません。
人の複製はビジネスにならない
ではどんなロボットが必要になるでしょうか。人と同じように反応したり、歩いたりするロボットは昔から研究されていますが、私はビジネスにならないと考えています。理由は以下の通りです。
- 人と同じ機能をもつロボットを買うならば、例えそれが24時間稼動できても、人を雇う方が安い。
- 上をクリアしても、労働者の雇用の縮小に繋がる。
労働はロボットに任せて、給料はベーシックインカム製にして人は遊んでいればよいという意見もありますが、労働の自動化は結局そのロボットを所有する資本家にさらに資本を集中させるだけであって、格差が更に広がるだけです。人型ロボットの研究は全くムダとは思いませんが、ビジネスにするならば研究の過程として得た知見を別の技術に転用することが必要だと思います。
ビジネスチャンスはガジェットにあり
ではどんなロボットにビジネスチャンスがあるか。私は人の五感の延長として、ガジェット感覚で扱えるロボットだと思います。光技術を使えば、人が目で見えない波長の光を見ることが出来る。それをドローンに搭載すれば人が行けないところまで行ってくれる。例えばこのようなロボットにビジネスチャンスがあると思います。ゲームキャラクターで例えると、おともアイルーのあたりでしょうか。ポイントをまとめると
- ガジェットは使用者に特殊能力を付与する
- 個人でも手が届く値段、かつコンパクトでエレガント
- ガジェットは新しい仕事、サービスを生み出す
身の回りをみますと、人工知能までとはいかずともスマートフォンはまさに上の三つを満たします。スマートフォンのソフトウェアが更に高度化し、機能の特殊化を進めたものが“売れるロボット”なのではないでしょうか。もちろん、スマートフォンのようなハブとなるインターフェイスや、ウェアラブルインターフェイスで操作することが望まれます。
直近のビジネスチャンスはスマホアクセサリ
人工知能の技術開発はまだ発展途上といわざるを得ません。映画:アイアンマンに出てくるジャービスのような人口知能が作られるまでにはあと十数年から数十年かかるでしょう。それまでは、上で述べたこともただの絵空事になってしまいそうです。直近での光技術のビジネスチャンスを考えてみましょう。我々民間人に最も身近なもので、先端のテクノロジーが入り込めるところは4つあります。
- 自動車
- 家電、住居
- スマートフォン
- 医療機器
です。この中で、新規に入り込めるところは、3スマートフォンしかないでしょう。スマホに取り付けたり、スマホで操作するアクセサリ・ガジェットです。実際、米大手クラウドファンディングサイトのKickStarterではこのようなスマホアクセサリのプロジェクトがとても多いです。またスマホと1,2,4の技術を繋げる試みも広く行われています。例 スマート家電
自動運転には光技術が必要不可欠
ここでも距離センサ
さて、今回も距離センサから演繹して、自動運転について書きたいと思います。何かと話題の自動運転です。Googleが参入したことも記憶に新しいですね。自動運転に、光距離センサは不可欠です。自動運転業界では、「レーザーレーダー」とも呼ばれます。これを用いて、車周辺の環境を認知し、必要に応じてブレーキをかけたりする訳ですね。自動運転という高度な要求を達成するには、センサは一つでは全然足りません。前方、後方、側面にセンサは必要ですし、ミリ波レーザーレーダーは遠くまで届きますが分解能が低いので、赤外レーザーレーダーとの併用が望まれます。*分解能と波長の関係については以前の記事を参照。何が言いたいのかというと、複数のセンサから得た情報を統合して状況の把握と行動決定をする「頭」が必要であるということです。このことを、「センサフュージョン」といいます。
センサフュージョンとは
センサフュージョンとは、簡単に捕らえるならば複数のセンサの情報から外界と自己の関係性を明確にすることです。例えば立方体の中で、自分がどこにいるかを捉えたいとします。三つのセンサを用いてx,y,z座標を同定すれば自分の座標が分かります。これはセンサフュージョンの最も簡単な例であり、入り口に過ぎません。この立方体の中の座標決定のメカニズムは、互いに関係のない(直交している、という)情報を足し合わせたものです。しかし、センサフュージョンはもっと高度なことも出来ます。自動運転に例えましょう。自動運転車搭載のカメラが、障害物を捕らえたとします。すると、レーザーレーダーがその情報をもとに、障害物が存在する領域にレーザーをあて、障害物との正確な距離を計測します。荒い計測でおおまかなポイントを掴んだ後、精密な計測で詳細な情報を得るということです。このように、個々のセンサの特質(何を、どれ位の精度で測れるのか)を活かして効率よく計測を行うことがセンサフュージョンの本質なのです。
自動運転=センサ×AI
さて、機能が高度化すると、とてもセンサの優位性だけで新規性を勝ち得るのは不可能になってきます。センサだけに着目すると、結局は精度勝負になるからです。自動運転のように、機械が人間に代替するようになるには、複数のセンサからの情報を効率よく処理して意思決定する必要があり、経験を蓄積してそれを活かさなければなりません。これはもう、人口知能なのです。なぜGoogleが自動運転に参入したのかこれで分かりました。Googleにはセンサ技術はありません。インターネット検索機能で培われた人口知能の技術があるのです。
光センサを活かすには、程度の高低はあるにせよ、それを処理・統制する「頭」が必要であることが大きなポイントです。光センサメーカーがデバイスだけではなく、モジュールをも製造している場合が多いですが、この場合、「ASIC」という「ある特定の用途用に開発された集積回路」が用いられることが多いです。
特集:MEMS技術 センサー・フュージョンの新技術 | ローム株式会社 - ROHM Semiconductor
空から地形を測る・・・航空レーザー測量
前回はドローンの話をしました。今回は、ドローンでは及ばない高度からの光計測について話します。それは、航空レーザー測量と呼ばれるものです。ドローンよりもっとずっと高高度、広範囲で、ドローンのところで説明した距離センサで地表をスキャニングするわけです。飛行機は自分の位置をGPSで正確に把握しながら、地表の凹凸を測定してゆきます。
航空レーザー測量の仕組み
レーザー測量の重要な要素は三つあります。一つは距離センサ、もう一つはGPS受信機、最後にIMU(慣性記憶装置)です。飛行機は飛びながら地表をスキャンしています。そこで自分の位置を知るためにGPSを使います。また、どのような角度で地表にレーザーを飛ばしたか知るために、IMUを使います。
どんなところで使われているか
地表計測の用途です。
http://www.mlit.go.jp/river/gijutsu/main/LP/
上のリンクは国土交通省のHPです。平成20年の岩手・宮城内陸地震によって、各地で川が土砂で防がれて天然のダムが発生した際、人の立ち入りが出来ないため、早期の現状把握に航空レーザー測量が使われています。
また、地震の発生リスクの評価のために用いられているようです。
http://danso.env.nagoya-u.ac.jp/jsafr/documents/AFR029_001_013.pdf
東北関東大震災の地盤変動の評価にも用いられました。
光計測で地震を予知できるか
航空レーザー測量の一番需要がありそうな用途は、やはり「地震予知」ではないかと思います。地震は断層のテンションの開放によっておこるので、沈み込む断層の経時変化を測定することで地震リスクの評価が可能になります。今後の課題はもっと精度よく計測することと、地震のメカニズムの解明をすること、でしょうか。津波のリスクがある地震は海底で起こります。海底を計測するためのレーザー測量器もあります。
航空レーザー測深器(現状は浅瀬の計測を想定)
実は光計測と水はあまり相性がよくないのです。水が光を吸収、拡散してしまうからです。水面下の計測は、やはり音波を用いたソナーに歩があるようです。もっとも、最新技術では音を測定する光技術もあるようなので、今後は海中計測用光技術が発展する可能性もあります。
航空レーザー測量の会社
非上場ですが、朝日航洋株式会社様という会社があります。
株主はトヨタです。やはり先見の明がありますね。私は上場したら株を買ってみたいですね。東日本大震災後、ネパールや各地で地震が起こっており、今後も地震予知のニーズはますます向上してゆくでしょう。
ドローン×光技術3・・・新しい応用のアイディア
ここからは、光技術をドローンに応用するアイディアを話していきましょう。もしかしたら、もう既に実用化しているかもしれません。
環境計測
ドローンにカメラを含め、より高機能なセンサを搭載し、人間が行くことの出来ない極限環境のデータ取りをしてもらいます。例えば…
シンチレータパネルを含めた放射能センサを搭載し、福島原発のデータ取りをします。自律操縦で、施設内部まで入れるでしょう。
・洞窟探査
地下の廃坑道や洞窟に人間が入るのはとても危険です。酸素が薄い可能性があるからです。ドローンに酸素センサを搭載してあらかじめ酸素濃度のマッピングをしてもらいましょう。
酸素濃度センサ(光技術ではありませんが…)
株式会社フジクラ | 製品情報 | エレクトロニクス | センサー
←これなんか小型で良いですね
映画プロメテウスに出てきた洞窟マッピングドローンなど、実用化できたら価値が高いと思います。
・大規模建造物ひずみ検査
以前にも紹介したひずみセンサを搭載し、建物や橋の周りをまわることで、壁面にあらわれたひずみを測定します。人では行きにくい橋の裏側などにもドローンは簡単に行くことが出来ます。
この他にも色々な用途が期待できそうです。
セキュリティ
・すでにSECOMなどが研究を始めているそうです。要は、自律型飛行監視カメラというところでしょうか。例えば、施設のゲートに侵入されたら、即座にドローンが数機飛び立ち、各種センサを用いて侵入者を探索、撮影します。
その他
・ドローンに光源を搭載させたらどうなるでしょうか。工場内での材料や製品の加工にも使えるはずです。3Dプリンタに応用すれば、より大きく複雑な構造を3Dプリントできるようになるでしょう。自動車のボディなどのレーザー加工にも将来的には応用できると思います。供えつけの加工機器よりも自由度が増すので、Indutrial4.0が掲げるマスカスタマイゼーションに役立つでしょう(Indutrial4.0についてはまた後に取り上げます)。
市街地や公園などでドローンを飛ばすと墜落して人にぶつかってしまう危険性もあるドローンですが、例えば上にあげたそもそも人が立ち入れない極限環境の計測や、工場内に限定したドローンの使用などは可能性があるのではないでしょうか(規制等の意味において)。
バッテリーの課題や風に流されて墜落してしまう問題などもありますが、それが解決すればドローンの用途は飛躍的に増すと考えられます。光計測デバイス・モジュールを搭載するのはその後だと思いますので、私個人としては引き続きドローン業界の技術動向を注視してゆきたいと思います。
ドローン×光技術2・・・現状ドローンに搭載されている光技術
前回はドローンの説明に留まりました。今回からはドローンと光技術の関わりについて書いてゆきます。
ドローンに使われている光技術1・・・カメラ
いわずと知れたドローンの標準装備です。小型・軽量のためデジタルカメラが使われます。デジタルカメラは、光学系で集光された光を感光紙のかわりに半導体センサで検出します。CCDイメージセンサーかCMOSイメージセンサーが主流です。ただのセンサではなくイメージがついています。どのような違いがあるのでしょうか。それは二次元で光を検出できる機能があるという違いです。どこが明るくてどこが暗いか分からなければ絵になりませんね。また色も分からなくてはいけません。色は人間の目と同じく、違う色の光を検出するRGBの三種類のセンサを並べて検出しています。
半導体が光を吸収して電流を流す効果は内部光電効果といいます。
半導体にはバンドギャップというパラメータがあり、それぞれ半導体の組成によって異なります。光が半導体に吸収されるためには、そのバンドギャップをこえるエネルギーを持たなければいけません。光のエネルギーは波長、つまり色に反比例します。赤い光を検出したければ低いバンドギャップの半導体を、青い光を検出したければ高いバンドギャップの半導体を用意すればいいわけです。半導体の光センサは、光→電子の技術です。その逆、電子→光は発光ダイオード、LEDと呼ばれます。光センサとLEDは表裏一体の関係にあることを覚えておいてください。
分かっている人には常識かもしれませんが、半導体の原理からCCDセンサの信号読み出しまで、基礎を抑えていると後々便利です。
ドローンに使われている光技術2・・・距離センサ
これはドローンに常備されているものではありませんが、高級機種などには搭載されているようです。ちなみにこの光センサは車の衝突防止センサなどにすでに実装されています。この光センサはTime of Flight:TOF距離センサと呼ばれます。これは光源から出た光が物体に跳ね返って光源の横の光センサに入ることによって、光が物体にあたって跳ね返るまでの時間から物体までの距離を計測するものです。
このように、自分で光を発生させて自分で測定する、という光計測もあります。これをレファレンス測定といい、自分で出す光をレファレンス光といいます。レファレンス光は周囲の関係ない光と混同されてはいけないので、特殊な波長だったり、パルス光になっています。
TOF距離センサは最新のドローンの衝突回避用センサとして実装されています。
ドローン×光技術1・・・ドローンについて
最近巷を騒がせているドローンです。官邸に放射性物質を搭載したドローンが落ちていた事件は記憶に新しいと思います。今回は、ドローンの概要です。
ドローンとは?
ドローンとは、小型で、自律運転するロボットのことです。テレビでみるドローンはクワッドコプターやマルチコプターの形をしていますね。たとえ形は同じでも自律運転しないものはラジコンです。逆に、普通のヘリコプターの形でも自律運転するものはドローンです。もともとドローンは軍事用に作られたものでした。下の写真は有名なプレデターというやつですね。映画にも登場しました(トランスフォーマーなど)。
なぜドローンが出てきたか?
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File:ZionCam800-2000px.jpg - Wikimedia Commons
一昔前にはこんなものありませんでしたね。実は高性能のジャイロセンサーが作られるようになってから、ドローンが私達にとってぐっと身近になったのです。ジャイロセンサーが無かった時代のラジコンヘリはとても操作が難しかった。操縦者が機体の様子をみて常に姿勢制御しければいけなかったからです。今のドローンは姿勢制御はジャイロセンサーを使って自動でやってくれます。だからドローンを遠隔操作する場合のコントローラーは単純に作られています。その方向にいけ!と操作するとドローンが自分でバランスをとりつつ動いてくれます。
だから、民生ドローンが普及すると、ジャイロセンサーメーカーの景気がよくなる可能性が大いにあります。
ドローンの使い方色々
・Amazonなどの宅配サービス(自律運転を利用)
・橋などの巨大構造物の外観検査(撮影・空撮機能の利用)
応用可能性はさらに広がる
悪用も・・・
ドローンを使ったベンチャー企業が生まれ、次々と企業が参入している現状があります。
ランプ製造工程に応用可能性のある光技術
まずレーザーによるガラス切断です。レーザーについての説明はまた後にするとして、以下のリンクを参照して下さい。リンク先の技術はガラス板の切断技術です。
レーザースクライビング
「ガラス箔の三次元成形」
光によるガラスの切断・加工は板状のものに限られているようです。
次はガラスのひずみ計です。加工したガラスはひずみなく均等な形をしていなければなりません。ガラスにかかるひずみは光技術を使って可視化することが出来ます。ひずみを視るには偏光の性質を用います。例えばガラス板が縦方向に応力がかかっている(ひずんでいる)としましょう。応力がかかっている部分は、その方向に屈折率が変わります。これは、ガラスを形成している分子の粗密が変わるからです。光をひずんでいるガラス板に通すと、ひずんでいる方向に対応する偏光の挙動がそうでない場所のそれと変わります。それを観察して、ひずみをみるのです。実際の図はリンク先で見ることが出来ます。
製品情報 | 折原製作所 - 光学測定機・理化学試験機 製造販売
まとめていうなら、現時点でランプ製造工程に応用できる光技術は限られます。ひずみ計は偏光版で作れるので、高性能なものを求めなければ自作できます。あとは大量生産向けの自動生産設備が考えられますが、ランプ製造ならではものではないでしょう。
参考
「従来のガラス管成型」