光技術の応用分野

 光技術の応用分野はとても広いため、ある程度絞ってトレースしてゆくのが一般的なようです。例えば、 一般財団法人光産業技術振興協会(以下、OITDA)の技術戦略策定レポートでは、2014年度では

 

  1, 情報処理フォトニクス

  2, 安心・安全フォトニクス

  3, 光ユーザインターフェイス

  4, 光情報通信

  5, 光加工・計測

  

 の5分野が選定されています。OITDAは専門家からなる調査委員会を有し、多角的で詳細な光技術の動向調査・分析をされている団体です。加えて、ニーズベース、マーケットインの思考に基づく、将来有望な分野の選定をされています。OITDA

 上の5分野は、応用可能性のある分野から、(日本の)産業発展の観点から有望なものを選定した結果となります。光技術の応用可能な分野は、実は産業の数だけあるといっても過言ではありません。

 

第一次産業・・・農業、林業、漁業、鉱業

例)農業分野に応用するアグリフォトニクス

第二次産業・・・製造業、建設業、電気・ガス

第三次産業・・・小売業、サービス業

例)エンターテイメント分野 

 

市場経済の活性化のためには有望なベンチャー企業が必要です。ニッチで、未だ応用されてない分野にこそチャンスがあるかもしれません。

 このブログでは、OITDA等が注目する分野に重心をおきつつカテゴリーにあまり縛られないで考えられうる応用可能性を言及してゆきたいと考えています。

光技術の分類

 当ブログにおいて、以下のように光技術を分類します。光技術(発光、受光技術など)と、それの応用を明確に区別しているところに留意願います。

  • 発光:電子 → 光
  • 受光:光 → 電子
  • 変換*・伝送:光 → 光

*変換とは、入力光を、進行方向、波長、偏光、コヒーレンス等のパラメータの異なる出力光に変換する技術を指します。

 

  具体例を挙げてみましょう。発光の技術を体現している製品は、ランプ、LED等があります。そしてその応用先は、屋内外の照明、電光掲示板、ディスプレイが一般的です。製造現場では、UV硬化樹脂用のUV光源、植物栽培用光源、非破壊検査用光源が応用先として挙げられます。医療分野では、レントゲン用のX線源にも、発光技術が用いられています。

 

「色と波長の関係 波長の単位は nm 」

 

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             Author: Maulucioni, basado en un trabajo de Megodenas License: CC by-sa 3.0

                                                             File:Spectrehorizontal.png - Wikimedia Commons

 

「電光掲示板 青色LEDが開発されてから、全ての色が表現可能になった」

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 「卓上用植物栽培セット Amazon,comより」

 

 次に、受光技術を体現しているのは、光センサー、そして太陽光電池が挙げられます。太陽電池の用途は発電です。一方、光センサーは、光を感知すると電流が流れる素子のことですが、応用先は様々です。身近なところだと、自動ドア、車のリモコンキー(波長は電波領域ですが)等に用いられています。その他、大まかに言うと、医療・バイオ、セキュリティ、各種製造工程における検査・測定、自動車(今後、自動運転が普及するとさらに需要拡大か)、情報通信、光メモリー等々です。実は、応用先が膨大にあるはずなのにいまいち活かされていないと思うのが、光センサを基にした光計測という技術分野なのです。光計測は、今後当ブログの柱になるでしょう。

 

「セキュリティに用いられる受光・発光技術」

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「太陽光電池」

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 変換・伝送の技術としては、やはり情報通信に不可欠な光ファイバーが身近です。これは伝送の技術です。変換の技術としては、偏光板という、縦・横どちらかの偏光しか通さないものや、非線形光学結晶を用いて光の波長を変換したり、偏光の向きを変える技術があります。少しややこしいので、これは個別に取り上げていきたいと思っています。

 

光ファイバーを用いた照明グッズ Amazonより」

 

 長くなりましたが、ここで言いたいのは、光技術は結局先に述べた三つに分類できるということと、その応用は私たちの日常に深く結び付いているということです。光技術関連の先端技術のニュースを見ていると、高度すぎて何のことやらさっぱり分からないこともあるかもしれません。しかし、三つのカテゴリーのどれに属しているかを考えると、少なくとも技術の概要(何が新しいのか、応用先はどこか等)はつかめると思います。先端技術は当たり前ですが、難解なものが殆どです。原理をつきつめてゆくとキリがありませんし、それは研究者でない限りはあまり重要ではありません。先端技術の新規性・進歩性・影響をシンプルに捉えることは、先端技術の期待度や投資する価値があるかどうか等の判断の一助になるでしょう。

 

光とは何か-3

 実験的事実からは、「光は波としての側面と粒子としての側面をもつ」ということが言えます。しかし、これは光=波モデルが成立する実験事実と光=粒子モデルが成立する実験事実が混在しているに過ぎません。二つの相反するモデルを両立させうる原理が必要です。この原理を見出すために大いに貢献したのが量子力学という学問です。光の、波と粒の性質について次のような原理が見いだされました。これは相補性といわれる原理です。

 

相補性とは、光や量子の粒子性と波動性や、古典論における因果的な運動の記述と量子論における確率的な運動の記述のように、互いに排他的な性質を統合する認識論的な性質であり、排他的な性質が相互に補うことで初めて系の完全な記述が得られるという考えのことである。相補性 - Wikipediaより。

 

つまり、光は波と粒子双方の性質をもつ不思議なものであり、波の性質が強いときには粒子としての振る舞いは小さくなり、粒子の性質が強いときには波としての振る舞いは小さくなる、ということです。この不思議なものは量子と呼ばれます。やはり、波と粒子の二つの側面を持つ光というものは、不思議であるといわざるを得ません。また、光電効果のように、新しい実験事実が発見されて今までの議論が更に進む可能性もあります。しかし、今のところは、光は波と粒子両方の性質を持ち、二つの相反する性質は、それぞれが補い合うことによって光という現象を完全に成立させることができる、と言われています。相補性のイメージ画像を下に示します。ご存知だと思いますが、陰陽図と呼ばれるものです。相補性を提唱したニールス・ボーアは陰陽図と自分の提唱した相補性の類似性を知って、陰陽図をもとに自分が受賞したエレファント賞の勲章をデザインしたそうです。

 

「ボーアのデザインした勲章」

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                                                                                    Author: GJo License: CC by-sa 3.0

                                              File:Coat of Arms of Niels Bohr.svg - Wikimedia Commons

相補性はイメージですが、数学的にも、波と粒子の性質が両立し得ることが分かっています。これは先ほどの量子力学を発展させた、場の量子論と呼ばれるもので、電磁場そのものが量子化されていることを示しています。

 

とても難しくなったかもしれませんが、光というもの、いや、世界そのものが未知なるものであるということです。

 

さて、光そのものへの考察はここで終わりにして、次回からは光技術に関する記事に移ります。

光とは何か-2

 しかし、それで話は終わりませんでした。光電効果という不可思議な実験事実が見つかったからです。光電効果とは、当時は、金属に光を当てると、電子が飛び出す現象のことでした。(現在ではこれは外部光電効果と呼ばれ、内部光電効果と区別されています)何が不思議かというと、当てる光がある一定以上の振動数を持たなければ、どれだけ強度(振幅)を大きくしても電子が飛び出してこなかったことです。

「外部光電効果

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                                                                                                                  License: CC by-sa 3.0

                                                              File:Photoelectric effect.png - Wikimedia Commons

 

これは困りました。今まで光は電磁波モデルで上手くいっていたのに、電磁波のエネルギーは振幅の二乗に比例するはずなのに、実験事実はそれを否定したのです。(先に言っておくと、光≠電磁波となったのではありません)有名なアインシュタインはこう考えました。「やっぱり光は粒なんじゃない?」話が元に戻ってしまうの?光が粒なら光の回折は?ヤングの実験は?そう言われそうですが、少し待って、アインシュタインの話を聞いてみましょう。彼はこの実験結果から、光量子仮説をたてました。これは、光=量子(粒子)モデルです。いわく、

光は以下の式で表されるエネルギーを持った量子である(h: プランク定数 v: 振動数 c: 真空中の光速 λ: 光の波長)

 E=hv=hc/λ 

 また、光の持つ運動量は以下で表される

 P=hv/c

(hとはプランク定数のことです。アインシュタインが光量子仮説の着想をプランクの黒体輻射の研究から得たことに起因します。)

式を見てみますと、不思議なことに気づきます。光は粒のはずなのに、周波数や波長を式に含んでいますね。どういうことでしょうか。つまり、アインシュタインがいう光量子仮説は、

振動数vの光はhvのエネルギー、hv/cの運動量を持つ粒子「光子」の集団として振舞う

ということです。我々は光に直接「あなた何者?」と聞くことはできません。物理学のプロセスに則って、その振る舞いを観測してモデル、原理の仮説を立てるしかないのです。光の粒子としての振る舞いは、コンプトン効果という現象にも見出すことが出来ます。

コンプトン効果

X線をものに照射したとき、散乱したX線の波長が入射したX線の波長より長くなる現象のことです。コンプトンは、この実験をもって、アインシュタインの光量子仮説を確たるものにしたと言ったそうです。

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                                                                            Author: Ito Sho 1123 License: CC by-sa 3.0

                                                                         File:Compton ex2.jpg - Wikimedia Commons

 

 さて、実験的事実からはひとまず、光は電磁波であるが、ときにはE=hvというエネルギーをもつ粒子(光子)として振舞うこともある、としておきましょう。光とは何か-3に続く。

光とは何か-1

 光技術のことを把握する上で、ある程度の光の知識は必要です。まずは光とは何かについて、前回説明した物理学のプロセスを回してみるとしましょう。近代物理学の祖、アイザック・ニュートンは、光の直進性と反射を観て、光の正体は光線と呼ばれる線を構成する粒子であると考えました。光=粒子モデルですね。ちなみに光を光線という線で捉える学問は幾何光学と呼びます。

「光の直進性の粒子モデル」

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「光の反射の粒子モデル」

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しかし、光を粒子とすると、屈折や回折などの現象を説明できません。そこで、光を波とする学者達が現れました。特に、ヤングの実験や複屈折は、光は波、それも横波であるというモデルをより強固にしました。

「光の屈折」

光が屈折率の異なる媒質の境界面で曲がるのは、光の波が進む速さが媒質によって異なるためです。

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「ヤングの実験」

二つの開口を通った光は回折し、二つの回折波は干渉を起こします。その結果、右にあるスクリーンに干渉縞と呼ばれる縞模様が現れます。

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                                                                               Author: Stannered License: CC by-sa  3.0

                                                                               File:Ebohr1 IP.svg - Wikimedia Commons

複屈折

方解石という石を通してものを見ると、二重ににじんで見えます。(ただぼやけているのではなく、二重ににじんでいることがミソ。)これは、光には偏光というパラメータがあるからだと考えられました。縦偏光と横偏光は、振動する方向が異なる波動です。方解石の中ではこの二つの偏光の伝播速度が異なるために、屈折と同じ現象が起きて、二つの偏光の進む方向が異なることから、像が二重に見えるのです。偏光の存在は、光が縦波ではなく横波であるという証左でもありました。(そしてこのことは次に述べるエーテルの存在を否定する一つの要因にもなったのです。)

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 光の直進性や反射など、光を線と捉える捉え方は、光は波面に垂直な方向に進む、というモデルをもって、光=波モデルに取り込まれました。光線は光の粒子がつくるものではなく、光の波の挙動によるものだった、というモデルです。

「光波と光線」

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 光=波動と分かったところで、学者達は、では何を媒質に光の波は空間を伝わるのか、と考え始めました。これがエーテルと呼ばれるものです。しかし、エーテルは様々な実験から物質としての存在は否定されたので、光は媒質が何にもなくても空間を伝わる、ということになってしまいました。困っていると、電磁気学という学問がヒントを与えてくれました。電磁気学とは、その名の通り電気と磁気についての学問で、その体系はMaxwell方程式という4つの方程式に集約されます。そのMaxwell方程式をいじってみると、電磁波という波動が導出されます。これは、電気と磁気が互いに相互作用しながら空間を媒質なしに伝播してゆく波です。

「真空中を伝搬する電磁波」

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                                                                                                                  License: CC by-sa 3.0

                                                                            File:Light-wave.png - Wikimedia Commons

そしてなんと、理論的に導かれた電磁波の伝播速度は、実験で確認された光の速さとよく一致していたのです。このことから、光は電磁波である、というモデルが出来ました。このモデルは、Maxwell方程式を原理とし、大変優れたモデルだったのです。光とは何か-2に続く。

 

導入-物理学のプロセス

 このブログが対象にしているのは、光技術や他分野の技術者の方はもちろんのこと、将来有望な市場を探している方も含まれます。理系でない方にも光技術のポイントを抑えて頂けるよう、まずは物理学のプロセスから導入したいと思います。

「物理学のプロセス」

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 上図をみて下さい。スタートは往々にして、事実です。事実は教科書に書いてある難しい数式のことではありません。私達の「目の前」で、「実際に」起こっていることです。事実から、私達は何かを学びたい。物理学の場合は原理です。原理とは、ある事実の裏に潜む法則であり、その法則を利用すれば、事実を操作できるようになります。しかし事実からいきなり原理までたどり着くのはとても難しい。原理というのはより普遍的で範囲の広いものだからです。そこで、まずは個々の事実をモデルに抽象化します。つまり、目の前で起こっている事実を構成する要素のうち、重要なものを抜き出して、そうでないものは省略します。そして、このモデルから数学を使って原理を導き出すのです。原理とは法則のことですから、厳密には数式で表されるものですが、数式を理解するにはときには高度な数学力が必要になりますので、概要・イメージを言葉で表す場合もあります。さて、原理として数式が得られたとしましょう。これが本当に正しいのかどうか、検証する必要があります。多くは実際に実験をやってみて検証しますが、実験の実行が困難な場合には、シミュレーション等で数理検証が行われます。要は、その原理が正しいかどうか証明する必要があるということです。予想と違った結果が出れば、再度このプロセスのサイクルを経ることになります。現代までの物理学の発展は、まさにこのサイクルの回転と同義だといえると思います。当ブログでは、原理についてはイメージの説明に留めることにします。

 注意:モデルそのものを原理とする捉え方もありますが、物理学としては複数のモデルの根底に流れる統一理論を探ることが目指すところといえます。

ご挨拶

 はじめまして、Aoi Rohn と申します。これから、「光技術による社会革新」をテーマにブログを書いていきます。技術立国日本をもう一度、そして、日本だけではなく世界経済、ひいては人類の明るい発展のために、どのように光技術が応用出来るかを考えます。

光技術は日々進歩し続けており、様々な場面で応用されています。しかし、私は未だにその広大に広がる応用のごく一部しか使われていないのではないか、もっともっと可能性があるのではないかと思っています。

 このブログでは、主に「光技術に携わる方」「光技術・先端技術に興味のある方」「将来有望な企業・市場を探している方」等に参考になるような情報・アイディアを発信してゆきたいと思っています。

 

「最も身近な光、太陽光」

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